魂の還るところ 〜Return to the Earth〜 ゆりかごの記憶

作:澄川 櫂

16.地球周回軌道にて

 ラー・ペトレールがアルバトロスを捕捉する。ブリッジに緊張が走ったのは、それが戦艦クラスの大きさと判ったからだ。
「何かの間違いじゃないのか? 艦種は?」
「艦種不明。映像、最大望遠です」
「ロンバルディア級に似ているといえば似ていますが……」
「どこでそんなものを」
 ネイサン副長の見立てに、シャガール艦長は首をひねった。海賊風情が簡単に保有できるような代物ではない。が、その見立てが確かなら、相手の方が多くのモビルスーツを搭載している可能性がある。
「目標減速。主砲射程外で相対位置を固定する模様。依然、IFF応答ありません」
「モビルスーツを出せ。バイロン中尉の隊に確認させる。Jファングは中程で待機。よろしいですな?」
 最後はカルヴァンに向けた言葉だ。
「もちろん。ただ、戦闘になったら好きにやらせる。そちらで合わせてくれたまえ」
 教授は手持ちのターミナルから目を離さず応えた。その無礼を咎めようとする副長を手で制すると、
「当てにしておりますよ」
 シャガールは冷ややかに言って、視線を戻した。

「なんだありゃ。ドクロ……じゃないよな」
 目標を視認したハンクは、その甲板に大きく描かれたエンブレムに目を奪われた。十字のスリットを入れた紅い瞳が二つ、黒い眼窩の奥で輝く意匠。灰褐色の艦体に映える淡いグリーンのシルエットは、かつての彼の愛機、ガルバルディを思わせるラインであった。
「モノアイを二つ並べたってか。悪趣味なことだ」
 そう口にしながら観察を続ける。随分と平べったい形状のふねである。メガ粒子砲らしきものが見えるが、数は多くないようだ。
 コースを変えて下面を眺める。上面には無かったカタパルトが二基、格納庫から伸びているが、艦橋構造物らしきものは見当たらない。
「見慣れない形ですね」
 ダイナー少尉の感想はハンクのそれと同じだった。
「遠目には撃沈艦と誤認しそうだな」
 そのまま一周してみるが、攻撃してくる様子はない。
「反応なしか……。臨検を試みるか?」
「中尉、八時方向に動体反応」
「何?」
 少尉の報告にカメラを向けると、ゆっくりと移動する隕石があった。その動きは不自然ではない。だが、その陰に見え隠れする金属反応を、ジェガンのセンサーは見逃さなかった。
「既に出ていたか!」
 ハンクが自機を加速させるのと同時に、小柄な機体が岩陰から飛び出した。ランスと円形シールドを装備したモビルスーツが二機。連邦系ともジオン系とも異なるラインの同型機だ。一機は背中に長筒を背負っている。
「どこの機体だ? 牽制射撃、当てるなよ」
 その行手を阻むべくビームを数射するが、相手は先刻承知らしく、まるで動じなかった。軽装の機体が振り向き、デュアル・モノアイを淡く灯らせる。まるでこちらを嘲笑うように。
「抑えます!」
「挑発だ。迂闊に乗るな!」
 ハンクの警告を無視してダイナーのジェガンが突出した。ライフルで牽制を続けつつ距離を詰める。と、それまで右に左に機動を変えていたそいつが、不意に動きを止めた。ライフルのビームをシールドで受け流して見せる。
「耐ビームコーティング⁉︎」
 驚くダイナー。その一瞬の隙を相手は見逃さない。加速をつけて突き出されたランスがジェガンの右肩を砕き、次いで繰り出されるすれ違いざまの回し蹴りが、その頭部を根元から吹き飛ばす。
「うわぁっ⁈」
「ダイナー!」
 部下の危機に先行する重装タイプの追跡を諦め、軽装タイプに仕掛けるハンク。
「まだ動けるな? 後退しろ」
「り、了解!」
 離脱するダイナー機を視界の端に捉えつつ、シールドのグレネードを放つ。避けたところをライフルで狙うつもりだったが、
「何っ⁈」
 突如破裂した隕石の破片が壁となり、目標の遥か手前で炸裂するグレネード。爆炎を迂回して迫る目標の奥に、ロングライフルを構えた重装タイプが見える。ビーム光は検知していない。実体弾とでもいうのか。
「近接戦は奴に分が……!」
 頭部バルカン砲で牽制しつつ距離を取る。ライフルを構えるものの、相手の動きが早すぎて照準が定まらない。侵攻ルートを予測して三射するが、AMBACからの急旋回で機動を変えたそいつは、右腕に仕込まれたハンドガンで応射するのだった。
「くっ! そんなところに」
 シールドで受けつつ一定の距離を保つ。重装タイプの動きを気にしてのことだが、そいつが仕掛けてくることはなかった。
 別方向からのビームがジェガンと彼らの間を引き裂く。ツルギのJファングが戦場に到達したのだった。

「来たぞフィル、新型だ」
 ゴブリン・ツーを駆る“グリズリー”は、接近する機体の侵入方位に向けてロングライフル——レールガンを構えた。
「ホリーの予測どおりですね」
 急旋回してゴブリン・ワンにハンドガンを撃たせるフィルが応える。直後に眼前を貫くビーム光。
「全く、見事なもんだ。……やるか?」
「ええ」
 ゴブリン・ツーの放つ砲弾が、Jファングの行く手にある隕石を次々と砕く。一方のゴブリン・ワンは、無造作に加速してハンク機の頭上を越えた。そのまま弧を描くようにして、断続的に続くビームの根元を目指す。無視された格好のハンクは、乗機にEパックを交換させつつ舌を巻いた。
「こちらが弾切れと知って……!」
 残念ながら自分の敵いそうな相手では無い。追尾を断念したハンクは、重装型の機影を探して移動した。ライゾーを支援するにしても、遠距離攻撃可能な機体を放っておくわけにはいかないだろう。
 と、センサーが砕ける隕石を捉えた。破片の軌跡から射点の当たりをつける。果たしてそこに目当ての機影を認めたハンクは、ジェガンを加速させた。
「良い判断だ」
 ゴブリン・ツーの“グリズリー”は、こちらへ迫るジェガンに気付いて笑みを浮かべた。レールガンをもう一射して向きを変える。
「このくらい散らしておけばなんとかなるか?」
 速度を上げつつダミーバルーンを展開。レールガンを折りたたんで背に納めると、腰のラッチからランスを引き抜く。そして、隕石の合間を抜ける軌道に機を乗せた。向かう先には地球——。
「さて、見失わないでくれよ」

「デブリを増やして盾にするか」
 前方で次々と砕ける隕石と、その陰を縫うようにして近づく所属不明機の反応に、ツルギは敵の狙いを読んだ。状況から察するに、相手はビーム兵器を所持していないらしい。その上、近接戦を得意とするようだから、撹乱して距離を詰めようとするだろう。
 サポートAIの“J”も同じ判断をしたようだ。サジェストされた武器を見て、思わず頬が緩む。
「それは良い考えだ」
 ツルギは“J”のサジェストを容れた。バックパックより引き出したメガキャノンを左手に握らせる。
「ダミーとは小賢しい」
 急に増えた所属不明機の反応を鼻で笑い、無照準で放つ。ジェネレーター直結のメガキャノンの一撃は、数多のデブリ共々ダミーバルーンを薙ぎ払った。
「そこだ!」
 “J”の示した座標に向かってライフルを撃つ。当たりこそしなかったが、ツルギはようやく目標を視認した。ランスと円形シールドを持った、デュアル・モノアイの小柄な機体を。
「逃さんよ」
 反転する目標を追いつつミサイルポッドを解き放つJファング。デブリ群に飛び込む所属不明機——ゴブリン・ワンは、振り向きざまに腕のハンドガンを掃射した。沸き上がる数多の爆光を突き破り、Jファングの背後に回ろうとする。
 だが、その動きは“J”の予測するところだった。別方向からのビームが二条、ゴブリン・ワンを付け狙う。
「この武器は……!」
「ほう、インコムを避けるか」
 巧みな機動で直撃を免れるゴブリン・ワンに、ツルギは素直に感嘆した。有線式誘導兵器であるインコムは、擬似的なオールレンジ攻撃を実現する。“J”によって半自動的に制御されるそれは、原型機より数段精度を増したという。実際、初フライト時の戦闘において、数倍する敵機のいくつかをインコムで撃破した。ハンク達との模擬戦でも、二機を同時に行動不能へと追い込んだ。
 相手のスペックが分からないので単純な比較はできないが、それでも格段に腕の立つパイロットであることは疑いない。
「楽しませてくれる」
 回収、チャージするインコムの次射タイミングを“J”に任せて、ゴブリン・ワンを追い込むツルギ。行く手に見える地球を前に、彼の心は踊っていた。

※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。