RGM-86物語

作:澄川 櫂

1.開発の背景

 次期主力量産型モビルスーツとしてRGMー86が計画されたのは、型式番号と同じ86年のこと。一年戦争終結から六年が経過し、戦後処理に一応の区切りをつけた連邦軍は、長らく抑制していた戦力整備に本格的に着手することを決めた。その一環として、新規設計によるモビルスーツ開発が行われることとなったのである。
 連邦軍の新規設計量産機としては、既にRMSー106“ハイザック”が存在したが、これに代わる機体としてRGMー86が計画されたのには理由があった。
 戦後初の新規設計量産機として84年より配備の始まったRMSー106“ハイザック”は、接収した旧ジオン公国軍の技術導入を名目に開発された機体である。が、その内実は中途半端な代物であった。操作性の良さで現場から一定の評価は得たものの、出力不足からビームライフルとビームサーベルを同時にドライブすることができないという、欠陥と表現して差し支えのない問題を抱えていた。
 また、ジオン製のモビルスーツ然とした外観も、軍上層の一部において著しく不評であった。予算委員会におけるある将軍の言葉が残されている。
「主力に非力なザクを据えろと? 貴公、それでも連邦の人間か!」
 こうして、純連邦的な外観を備えた新型機が開発されることとなったのである。
 当時、ティターンズ主導の下でRX-178“ガンダムMk.Ⅱ”の開発が進められていたが、同プロジェクトは軍内部において極秘とされていた。そのため、RXー178の成果が反映されることなく設計されたRGMー86は、それ以前に開発された連邦軍量産型モビルスーツの集大成とも言える構造を持つ。
 実績ある技術で固めたRGMー86は、トラブル続きのRXー178とは対照的に安定した仕上がりを見せた。既存機種との互換性も非常に高く、整備・運用面でも申し分のない機体と言えた。
 これがモビルスーツ開発の揺籃期であれば、RGMー86は正当進化系の機体として高く評価されたことだろう。実際、いわゆる第一世代と呼ばれる機体群の中では抜き出たスペックを誇っている。だが、時代は既に変革期へと突入していた。RGMー86は不幸にもその事実を知らなかった。

※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。