RGM-86物語

作:澄川 櫂

2.ネモの衝撃

 87年3月に起こったエゥーゴによるグリプス襲撃事件は、連邦軍にとって大きな衝撃であった。軍内部の少数派不満分子に過ぎないと見なしていた組織が、独自に開発した革新的な高性能機を実戦投入したからである。後に第二世代型の先駆けと呼ばれるRMSー099“リックディアス”がそれだ。
 ムーバブルフレームと呼ばれる内骨格に装甲を被せる構造は柔軟性に優れ、連邦軍においてもRXー178で実証を重ねていた。しかし、装甲それ自体が機体の骨格を兼ねるモノコック構造に比べると、装甲板を別に被せる分だけ重量が増加し、運動性能の低下を招くという欠点があった。
 理論的には強力なバーニアと軽装甲の組み合わせで解決可能だが、耐弾性を損なわずに実現するためには絶妙なバランスが要求される。事実、RXー178は度重なる設計変更で試行錯誤を繰り返したものの、これを解決することができずに終わっている。
 RMSー099では、装甲材に新素材“ガンダリウムγ”を採用することでこの問題をクリアした。重モビルスーツを思わせる外観にも関わらず、細身のRXー178より軽量であり、かつ、性能もあらゆる面において凌駕したのだ。RMSー099はグリプスの防衛網をあっさりと食い破り、RXー178の奪取に成功する。
 だが、連邦軍が本当の意味で衝撃を受けたのは、MSAー003“ネモ”の登場であった。RMSー099譲りの構造を持つMSAー003は、一見すると装甲重視の鈍重なジムである。が、実際にはRGMー86よりも軽量で、ほぼ同型のバックパックを採用しながら、その機動性と運動性はRGMー86を大きく上回っていた。
 一般パイロット向けに用意された敵対勢力の機体が次期主力候補機より優れているという事実は、連邦軍首脳部を震撼させた。期待の新鋭RGMー86は、登場時点で既に旧式と化していたのだった。正式採用が決定し、生産ラインもほとんど整っていたRGMー86であったが、本格生産に入ることなく性能改善を求められたのである。

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