星のまたたく宇宙に

作:澄川 櫂

終章 腕を伸ばして

 ——No system files.

 モニターに映し出されたメッセージを確認して、ティレルはコンピュータの電源をオフにした。油の切れかかったファンの回転が止まり、静寂が辺りを包み込む。
 三日前、サイレンに乗って飛び出した隕石基地に、彼は戻っていた。殺風景なその部屋は、ティレルにとって終わりの場所であり、はじまりの場所でもある。
 様々な記憶が蘇る。隊長からのビデオレターを見たのも、この部屋でのことだ。が、彼がこの場所に戻ってきたのは、想い出に浸るためではない。その全てを消し去るためであった。
 スヴァローグを脱出したあの日、隊長が積み込んだトランクには、万一ことが露見した場合の指令書が入っていた。全てのデータを消去し、同梱の起爆スイッチを押し込む。先の戦闘でN37特機中隊としての任を解かれたティレルだったが、その命令だけは果たすつもりで、ここに戻ってきたのだ。
 ニュースの類を一切見ていないので、今がどういう状態なのかは知らない。それでも、隊長や副長が大変な状況にあるのは想像がついた。だからこそ、証拠の一切を破壊する必要があると思った。
 同時にそれは、サイド2で関わりを持った人々全てに累を及ぼさないための、最善の方策でもある。
 脱出ポッドごとサイレンから放り出されたティレルは、サイド2への帰路にあったハーヴェイ親子の船に拾われた。衝撃で気を失っていた彼は、ネッドに頬をはたかれて、めでたく生還を果たしたのだった。
 こんな偶然があるものなのだろうか。ティレルは何よりもまず、そのことを思った。脱出ポッドが友軍に回収される確率は五分五分だと教えられていた。それも、広大な宇宙空間で発見されるという、僥倖に恵まれての話だ。
 友軍と言うには語弊があるが、ハーヴェイ親子に見つけてもらえたのは、幸運以外の何物でもない。
(どうして助かったんだろう……?)
 黒いモニターを見つめながら、ティレルは記憶を辿った。
 エンジンユニットを抉られ、きりもみ状態となったあの時、コクピットに座るティレルには、脱出レバーを引く余裕などまるでなかった。急激なGに体はこわばり、失神寸前の状態にあったのだ。彼にできたことと言えば、カチュアと交わした約束——この場所に戻ってくる——を果たしたいと願うことだけ。
 今わの際のサイレンは、そんなティレルの声に応えたのだった。システム自ら脱出ポッドを作動させ、文字通り彼を放り出したのである。薄れ行く意識の中、炎に包まれ行く赤い機体は、別れを告げるように一瞬、四肢を取り戻し、そして、散っていった。
(サイレンが、僕を生かしてくれた?)
 まさかね、と続けながらも、そう思わずにはいられない。サイレンに携わった人々の顔が思い浮かんだ。
 ブラックボックスサイコミュを調整し、その操作法を自分に手ほどきしたスタイン技術中尉。チューンの傍ら、機械いじりのイロハを教えてくれたマクミラン技師長。そして、隊の仲間達……。
 彼等の大部分は、既に此の世の人ではない。でも、隊長に言われたコマンドを入れたとき、サイレンのコンピュータに、彼等が宿ったような気がした。
 サイコミュに紛れ込んた少女の意識は、冷たくて悲しくて、そして孤独だった。その干渉を断ったサイレンのシステムは、対照的に、どこか温かく感じたのを覚えている。
(僕はずっと、一人じゃなかった。みんなに守られてここにいる)
 視線を上げ、窓越しに格納庫を見やるティレル。がらんとした空間に、オレンジ色の脱出ポッドがぽつんと転がっていた。サイレンのコクピット・ユニットであったそれは、今や全ての機能を失い、単なる鉄の球と化している。
 だがその座席には、先程までティレルの着ていたパイロット・スーツが、爆薬を抱えるようにして座っているのだった。開け放たれたハッチからは、信管と起爆装置とを繋ぐケーブルが伸びている。デスクにある、グリップ状のリモートスイッチを押せば、真っ先に粉々になるはずだ。
 リモートスイッチを手に、エアロックを出たティレルは、その脱出ポッドの前に立って、深く頭を下げた。
 そのまましばし——。
 やがて顔を上げたティレルは、もう振り返ることをしなかった。床を蹴って、人員用出入り口ハッチから隕石基地の外へ出る。星のまたたく宇宙が、視界いっぱいに広がった。
 人員用出入り口ハッチは、機体搬出用ハッチを下と表現するならば、その反対の上方に位置していた。岩盤の上に立ってサイド2を眺めると、なだらかな曲線を描く丘陵の向こうに、太陽の光を受けて輝くコロニー群が見える。それは、視界に映るどの星々よりも、鮮やかに輝いていた。
(あの光の中に、カチュアがいる……)
 そう思ったとき、ティレルは心の内に苦いものが込み上げてくるのを感じた。サイレンに乗って戦った、最後の場面を思い出す。
 サイコミュの呪縛から解かれたティレルは、これ以上、誰も傷つけないと誓った。にもかかわらず、彼はバーザムのパイロットを殺してしまったのである。
 あの時、展開させていた二基のファンネルは、ライフルを構えるバーザムのコクピットを文字通り狙い撃った。咄嗟のことだったとはいえ、ティレルの意志が、そうさせたのだ。
 一撃で仕留めないとやられる。脳裏に浮かんだ“コクピットを直撃する”イメージを、サイレンは忠実にトレースした。彼の内なる声に、即座に応えていた……。
 ティレルは自身の手を見つめた。
 この手で操っていたマシーンが、何人もの命を奪った。正気を取り戻してもなお、パイロットの一人を消滅させた。結局のところ、どちらも自分という人間の弱さが招いたことなのかもしれない。
 サイレンに乗ったこと自体には、何の後悔もなかった。ああしなければ隊長は助からなかったと、今でも信じている。ただ、その結果については悔いが残る。
 カチュアに合わせる顔がない——。
 当てもなく流れてきた自分に、家族のように接してくれたカチュア。彼女は戦争で大切な、本当の家族を失っていた。その悲しみは、今も癒えることなく、心に重くのしかかっている。
 だからティレルは、戦争はしないと決めた。人殺しだけはすまいと誓ったのである。きれいごとに過ぎないのかもしれない。でも、カチュアの心をこれ以上傷つけないためには、そうする必要があった。そして、サイレンならば、それができると信じていた。
 だが現実には、単なる夢物語だった。きれいごとどころではない。流されてサイコミュを使ったあげく、隊長のおかげで我を取り戻してなお、人を殺めたのだから。
 今更どんな顔をして、カチュアに会えるというのだろう?
「いいか、俺が戻ってくるまで、大人しくしてろよ。勝手やったら承知しないからな」
 プチ・モビールでサイレンのポッドを運び込んでくれたネッドは、去り際にそう念押しした。
 人目につかないところで処分したい。ティレルのたっての願いに、ハーヴェイ親子は何も聞かずに手を貸してくれた。が、少なくともネッドは、ティレルの胸中に気付いていたのだろう。プチ・モビールの操縦を頑として譲らず、彼をここまで連れてきてくれた。
 商売道具をなくされたら困る、というのがその理由だったが、ティレルが自身を含めて処分することを危惧したに違いない。
 フィンフィンのデータ書き込みを彼の船でやったのは、たまたま機材が揃っていたからだ。ティレルのノートパソコンにはデータがあり、ネッドが月で手に入れた記憶チップには、汎用タイプのライターケーブルが付属していた。
 不意に心残りを思い出したティレルは、何かに取り憑かれたように、一心に作業を行った。仕掛りだった欠損データの補正を一気に終わらせ、一晩がかりでフィンフィンのプログラムと記憶を書き込んだのである。
 あるいはそのことで、心の内をネッドに気付かれてしまったのかもしれない。出来上がったチップを手渡された彼は、差し換えを頼むティレルに怒りを露わにした。
「馬鹿野郎! そんなんで、カチュアが喜ぶと思ってんのか?」
 思わずきょとんとする自分に、ネッドはっとして顔を背けた。そのまま後ろを向くと、気持ちが落ち着くのを待って、
「……悔しいけど、お前がいなけりゃ直せなかったんだ。だから、きっちり見届けろよな」
 そう続けるのだった。
(全く、いいやつだよな)
 去り際のネッドの顔を思い浮かべながら、ティレルはつくづく思った。あんな性格なのに鋭いよな、とも思う。
 確かにティレルは、サイレンのパイロットたる自身の処分について考えていた。命令書にはそうした指令は書かれていなかったが、自分という生き証人が周りに及ぼす影響を考えたとき、自然とそのことに思い至ったのだ。
 だが一方で、それではただ逃げているだけのような気がして、悩んでもいた。自分のしたことをきちんと受け止め、生きていくことこそが、生き残った自分に課せられた使命なのではないか、と。
 そしてなにより、赦されるならばもう一度、カチュアに会いたいと願う自分がいた……。
 ネッドの言葉は、それら全てを見透かしたもののように思えた。
 きっちり見届けろよな。
(ライバルに活入れてどうするんだよ?)
 ネッドもまた、カチュアを好いていると知っているだけに、思わず苦笑がこぼれる。が、その言葉は有り難かった。
 サイレンの記憶を処分するにしても。任務達成を確かめた上で、命運が尽きるまで生きて見せろ——。
 隊の仲間達に代わって、そんなふうに言われた気がした。それだけに、今からやろうとしていることは、彼に対して申し訳なく感じてしまう。
(……ごめん)
 内心で呟いてから、ティレルは顔を上げた。頭上の星空を見ながら、踏ん切りをつけるように岩を蹴る。彼の体は、いとも簡単に宇宙の虚空を目指して浮かび上がった。
 しばしその浮遊感に身を任せると、軽く体を捻る。正面に基地を捉えた。今や両手で抱えられるくらいの大きさになった岩塊は、特に何かを語りかけるでもなく、静かに佇んでいる。
 ここまで離れれば、爆発に巻き込まれることはないだろう。そのことを確かめたティレルは、手中のスイッチに親指を添えた。
 ティレルは自分の運命を試してみるつもりだった。偶然に拾われた命は本物か。自分は本当に生きていて良いのか。そのことを確かめたかった。
 それが自己満足以前の馬鹿げた行為であるのは、自分でもよく解っている。せっかく助かった命を自ら失うことは、これまで自分を助けてくれた人々に対する、重大な裏切り行為に他ならない。彼等の努力を無にする権利など、自分にはないはずだ。
 仮に助かったところで、カチュアに合わせる顔ができるわけでも何でもなかった。それで戻れるつもりになっても、彼女が自分を受け入れてくれるとは限らないのだから。
 それでもティレルは、運試しをしようと決めた。これで誰かに見つけてもらえるなら、なぜかしら前に進める気がするのだ。赦されるとか、そう言ったことではなく、自分に対する自信——生きる勇気がもらえる気がする。
 自身が引き起こした現実と、正面から向き合う覚悟はある。でも、そのための一歩を踏み出すきっかけが欲しかった。
 結果がどう転ぶかは分からないけれど、もしもまだ、運に恵まれていたらならば、その時には堂々と、胸を張って生きていこう。
 命運が尽きるその日まで。
「——バイバイ、サイレン」
 僅かに伏せた瞳をしっかり見開いて、ティレルは起爆スイッチのトリガーを押した。

「あの馬鹿! あんだけ待ってろって言ったのに!」
 正面に見えた光に、スワローテール号を操るネッドは思わず声を荒げた。
 目的の座標に位置する、ここからではまだ親指ほどの大きさでしかない隕石から、赤い炎が吹き出している。遠目にもそれと判るほどに、高く激しく。
 隕石そのものが砕け散るようなことはないと思えたが、その勢いを見れば、灼熱の炎によって内部が跡形もなく焼き尽くされようとしていることは、嫌でも想像がつく。ネッドはギョッとして隣を向いた。
 彼の不安とは裏腹に、カチュアは正面を見つめたまま、静かに腰掛けていた。膝に抱えたフィンフィンが暇をもてあましたように回転するが、それを気にすることなく、眼前の光景に見入っている。
 だが、その視線は隕石に向いていなかった。激しく燃えさかる炎などまるで目に入らぬように、宇宙の一点を見つめて離れない。
「カチュア……?」
 ようやく不審に思ったネッドが声を掛ける間もなく、彼女は立ち上がった。転げ落ちるフィンフィンに目もくれず、船の後方にあるエアロックに向かって床を蹴る。
「カチュア、どうしたの!?」
 ネッドが振り返ったときには、カチュアはバイザーを降ろしてエアロックに立っていた。辛うじて追いついたフィンフィンが、ハッチの向こうに黄緑色の球体を消すのが見える。
「カチュア!」
 慌てて後部甲板の映像を呼び出すネッド。船外に出たカチュアは、そこに係留してあるメッドに文字通り飛び乗っていた。シート脇のスペースにフィンフィンが収まるのを待って、大きな半球状のキャノピーを閉じる。
 自らワイヤーを外したメッドは、彼が制止するより早く、星空に向かってふわりと飛び立つのだった。
「確か、こっちの方角……」
 フットペダルと操縦桿を小刻みに操作して、カチュアはメッドの向きを変えた。先ほど目にした光景を思い描きながら、宇宙の一点を目指して移動する。
 スラスターを数回噴射し、メッドを望みの軌道に乗せたカチュアは、半ば身を乗り出すようにして正面を凝視した。隕石が火を吹く直前にちらりと見えた小さな光。その儚げな光の元を、彼女は探していた。
 なぜこんなにも必死になるのか、自分でも判らない。でも、あの時見えた光は、何光年も彼方にある恒星のものでも、星の波間を往く船のものでもなかった。ましてや、戦争の生み出す光などでは決してない。
 ほんの一瞬だけ見えたその光は、他に比べて随分と小さく、頼りなかったけれど、不思議な光沢を持って何かを語りかけていた。
 いや、正確に言えば、そんな気がしただけなのだが、妙に惹かれるものを感じたのは本当だ。どうしてだか、それを見つけないとならないような気がした。でないと一生後悔するような、そんな衝動に駆られたのだ。
(私を待ってる……?)
 そうだ、きっと待ってるんだ。誰かが迎えに来るのを。この、星のまたたく宇宙のどこかで。
 注意深く視線を動かしながら、カチュアは家族のことを想った。コロニーから放り出され、凍てつく宇宙の片隅で永遠に眠っている家族のことを。
 宇宙服を着ていなければ、人間はほんの僅かの時間しか、その生を維持することができない。宇宙という、生命にとってもっとも過酷な環境では。だから、さして苦しむ間もなかったろうと聞かされている。
 でも、その魂はどうだろう?
 ひょっとしたら、今でも一人寂しく、誰かが迎えに来てくれるのを待っているかもしれない。
 戦争の混乱が原因で、迎えに行くことの叶わなかった、自分の家族。ロボットのフィンフィンは、四年経っても帰って来れた。けど、人はちゃんと迎えに行かないと、生きて戻っては来れない。両親やケビンのように。
 今となっては、家族の遺体を見つけ出せる望みは低いだろう。これからもずっと、寂しい思いを抱き続けるに違いない。それはそれで辛く、悲しいことだが、今生きている命、新しい家族をちゃんと連れて帰ることができれば、彼等も浮かばれるのではないか?
 そう、新しい家族。カチュアは自分の代わりに18バンチに行ってくれた、少年の顔を思い描いた。
 イワンさんと機械をいじっていたときの、楽しそうな顔。パーセルのオレンジ色のユニフォームを着たときの、困った顔。そして、「必ず戻ってくる」と言ったときの、真剣な顔。
 あの顔に支えられて、自分はこの四年間を過ごしてきた。寂しさにも負けず、暮らすことができた。だからこそ、自分が迎えてあげないと。
(探しに行けなくてゴメンね、ケビン。こんなお姉ちゃんを許してくれる?)
 きっかけは、雰囲気が似てたからなんだよなと思いながら、弟に問いかけるカチュア。
 
 ——もちろん。ね? フィンフィン。

 頭上から、そんな答えが返ってきた気がした。誘われるようにして上げた視線の先。遠目に微かに映る地球の、青く淡い輝きを捉えつつ、右から左へとゆっくりと転じる途中に、同じ雰囲気を持った光がちらりと見える。
 捻るようにして、僅かに向きを変えるメッド。果たして真正面に、彼はいた。
「ミツケタ! ミツケタ!」
 フィンフィンが跳ねる。星空に漂う白い宇宙服が、こちらに気付いて振り向いた。それが誰だか、彼女には判っている。
 メッドがちゃんと流れていることを確認して、カチュアはエンジンを切った。キャノピーを開け、宇宙に向かって身を乗り出す。両手を大きく広げて、心の底から彼を呼ぶ——。

 こちらに向かって近付いてくるメッドに気付いたのは、耐えかねてまぶたを閉じそうになった、ちょうどその時だった。
 覚悟はしていた。慣れていたつもりだった。だが、一人で宇宙に漂うのは、サイレンと共に流れた時よりも、ずっと寒くて孤独だった。
 自分の体は、まだほのかな温もりを保っている。が、真空の星空に対してあまりに無防備な肉体を包み込む宇宙服の機能が止まれば、瞬く間に氷よりも冷たい代物に変わり果ててしまう——。
 そのことに気付いた時、ティレルは全身が粟立つのを感じた。言いようのない心細さに、芯から凍えそうになる。今し方まで心地良く感じた星々が、急に冷ややかな視線を向けているように思えた。
 このまま誰にも見つけてもらえなければ、宇宙を漂うデブリの一つになってしまう。物言わぬ抜け殻となって、徐々に干からびて行く様を独りで見つめるのだ。
(……嫌だ)
 ティレルは全身を強張らせた。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ!)
 ようやく気付いた本当の気持ちに、拳を握り締める。
(僕はまだ、死にたくないんだ!)
 そう叫んだ瞬間、ほのかな光を感じたと思った。閉じかけたまぶたを見開いて、光の差し込む先に顔を向ける。
 黄土色のワーカーを目にするや否や、ティレルは彼女の名前を口にしていた。
 その声に応えるかのように、キャノピーが開く——。

 大きく両手を広げるカチュアに向かって、思いきり腕を伸ばすティレル。つま先立ちになって、それに応えるカチュア。
 まるで互いに引き合うかのように、二つの掌はしっかりと結ばれた。ヘルメットを合わせる二人。
「お帰り、ティレル」
「ただいま、カチュア」
 羽根をぱたつかせるフィンフィンが、星空に向かってゆっくりと流れて行く。少女の頬を伝う涙。少年はしっかりと、少女の体を抱きしめた。

エピローグ

『管制室よりパレット中尉へ。状況報告を願います』
『こちらパレット。光点の主を確認した。スワローテール号だ』
 頭上を行くサイド2守備隊所属機のやりとりを、きっちり周波数を合わせた無線機は聞き逃さなかった。
『ジャンク漁りですか』
『らしいな』
 呆れたような響きの声が、旋回する緑の機体から降りてくる。くすりと笑うと、彼女はメッドの両手を振ってやった。
 案の定、楽しげに慌てる様子が無線機越しに伝わってくる。
『あら、いけない。見つかっちゃったわ』
『困りますねぇ、中尉。戦利品になる前に引き上げて下さいな』
『了解』
 人型に転じたメタスⅡは、メッドに応えて右手を挙げると、再びアーマー形態に戻って加速をかける。
 スラスターの輝きは一筋の流れ星となって、星のまたたく宇宙に吸い込まれていった。

「星のまたたく宇宙に」完

※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。