魂の還るところ 〜Return to the Earth〜 ゆりかごの記憶

作:澄川 櫂

Epilogue

「ねえ、コレット。これからのことは決めてるの?」
「具体的にはまだ。でも、ケビンさんがお仕事紹介してくれるって言ってたから、なんとかなるかなぁ、て思ってます」
「ティレルが?」
 コレットの言葉に、リサはどことなく不愉快そうな表情を浮かべ、ボソリと呟くのだった。
「……相変わらずはしこいやつ」
「相手が悪かったと諦めるより仕方ないさ」
 フィルの言葉にコレットが小首を傾げていると、
「実はね、コレットにサナリィうちに来てもらえないかな、て思ってたの」
 それに気付いたリサが言った。
「私が休みに入るとゼロを使った試験が止まっちゃうんだよね。ティレルに頼む手もあるけど、それはそれで癪に触るし」
「だいたい、断られる率の方が高いものな」
「そうそう。で、コレットもあの子を動かせるわけだし、お願いできないかな、と」
 思いがけないスカウトの申し出に、コレットは嬉しそうな表情を浮かべつつも、ぺこんと頭を下げるのだった。
「ありがとうございます。でも、養母かあさんの落ち着ける場所、見つけるのが先ですし、ケビンさんとの約束もありますから」
 その言葉に、フィルは傍のリサへささやいた。
「フラれちゃったね」
「やっぱあいつには勝てないかぁ」
 同様に小声で応えて目線を天井へ向けるのも束の間、リサは顔を上げたコレットに微笑んでみせる。
「もし、ティレルの紹介する仕事が気に入らなかったら、連絡してね。いつだって大歓迎よ」
「はいっ」
 そんな三人のやりとりを眺めていたハリエットは、苦笑混じりにこぼした。
「やれやれ、すっかり年寄り扱いだね」
 つい先ほども、荷物運びを買って出たニコルが、似たようなことを口にしたのだ。おかげで入港間近だというのに、こうして暇を持て余している。
「いい子達じゃないか」
 そう声をかけたのは、後方に佇立する"DDⅢデディドライ"から流れてきた"グリズリー"だ。愛機の手入れをしつつ、機体が拾う周囲の音を耳にしていたのだろう。ハリエットは肩を竦めた。
「素直すぎて海賊には不向きだね」
「かもしれんが、その心配はもう不要だろう?」
 言って、にやりと笑う“グリズリー”。返す言葉が見つからない彼女は、黙って頭を掻くばかりだ。
「見事に一本取られましたなぁ、姐御」
「やっぱり歳なのかね」
 冷やかすバブラクに嘆息する。少し遅れて戻ってきたニコルが首を傾げるが、幸い、それ以上の興味を示すことはなかった。
「姉ちゃん、コンテナのロック、ミカンに任せきりにしたろ。さっき一斉に蓋開いて、イアンさんカンカンだぞ」
「えっ、マジ⁈ やばっ‼︎」
 慌てて輸送艇へ流れるコレットに、ニコルが呆れ顔で確認する。
「コアファイター、運んじゃっていいんだろ?」
「お願い!」
 振り返りもせずすっ飛んでいくコレットの姿に、"グリズリー"は部外者故の気楽さで笑った。
「あんたの心配事は、しばらく尽きそうになさそうだ」
「まったくねぇ」
 ハリエットの苦笑もいつしか愉しげなものへと変わって行く。彼女はようやく、過去の呪縛から解き放たれようとしていた。

「魂の還るところ」完

※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。