GUNDAM SHORT STORY

作:澄川 櫂

苦渋〜ジャブロー攻略戦 U.C.0087.5.11

 樹の陰に機体を滑り込ませると、彼——アルバート・デュラン中尉は舌打ちした。
(旧式のくせに)
 内心そう罵りながら、愛機、黒いディアスにサーベルを握らせる。主兵装であるクレイ・バズーカに、弾は残っていなかった。右手に持っているビーム・ピストルも、あと数射出来るかといったところだ。
「……白兵に持ち込めれば」
 焦りを押さえつけるかのように呟く。一呼吸おいて、彼は動いた。
 直後、

 ドゥッ!

 背後に着弾。立ちこめる土煙を背に旋回すると、正面に明るいブルーの機体が入ってきた。
 MS-07Hグフ飛行試験型。旧公国軍が開発した機体を戦後連邦軍が接収したもので、多少の改修を受けているとはいえ旧式の部類に入るMSだ。が、速い。
 接触してから10分以上になるが捉えられない。それどころか、やつには2機も落とされている。手にするのはジャイアント・バズ。一年戦争時、連邦軍の将兵を畏怖させた武器だ。
 ホバー走行しつつ、グフは再びそれを構えた。さしものガンダリウム合金も、喰らえばただでは済むまい。
「チィッ!」
 無照準で一射。
 牽制のつもりだったが、図らずもバズーカに命中した。その爆風に、相手の姿が見えなくなる。
(やったか……? いや)
 彼は即座に打ち消した。ジャブローの密林の中で、難なくジャイアント・バズを扱えるほどの手練れだ。この程度でくたばるわけがない。案の定、粉塵を突き抜けたグフの機体には、さしたる損傷も見受けられなかった。
 と、別方向から火線が。相手がバズーカを失ったのを見て勝てると思ったのか、ネモが一機飛び込んできたのだ。
「迂闊なっ!」
 言ったときにはもう遅い。グフの指先に装備されたバルカンが火を噴き、ネモは頭部を吹き飛ばされた。
「下がれクルツ!!」
 部下の名を叫んでおいて、彼は機を突撃させた。ビーム・ピストルを一射して投げつける。どうせエネルギーはあとわずかだ。
 グフのバルカンがピストルに当たり、小さな火球を作る。それで十分だった。
 一気に接近して降り立つとグフの腕を落とし、右手を突き出す。握ったもう一本のサーベルは、正確にコクピットを貫いた——。

 40分後、彼はガルダのブリッジにいた。正面のモニターには、巨大なキノコ雲が映し出されている。ジャブローが消滅する瞬間だ。
「中尉……」
「負けたな」
 嘆息混じりに一言、彼は呟いた。
 ジャブローはものけのからだった。拠点分散の動きが極秘裏に進められ、彼らが降りてきたときにはおおかた終了していたのである。そのためティターンズにはここを守る気などはなからなく、友軍もろともエゥーゴを核で葬ろうとしたのだった。
 ティターンズの拠点を叩くというエゥーゴの試みは、完全に失敗した。全ては無駄な戦いだったのである。
「中尉、我々は帰れるんでしょうか?」
「……」
 U.C.0087.5.11。時代の波は、まだ動こうとはしなかった。

※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。