機動戦士フェニックス・ガンダム

作:FUJI7

18 フェニックス二号機

「来る!」
 ナナが、ジャンを抱いていた手に力を込める。
「………?」
 『何』が来るのか、は、ハッキリとはジャンにはわからなかったが、その属性だけは感じられた。
 『我に害なす者』だ。
「テスが来る! 早く乗るのよ!」
 ナナはジャンに言い放つと、赤いフェニックスのコックピットへ走って行く。ジャンも、生身の危険を感じ、ナナに触発されたかのように金色のフェニックスに向かう。
 コックピットハッチを開け、リニア・シートに座り込む。
「………………」
 まだ電源スイッチを入れていないコックピット内で、ジャンは安堵の息を吐く。何か懐かしい感触がする、とジャンは思った。ZPlusのコックピットでは、悪戯に興奮と緊張の念だけが増殖していたのだが、このフェニックスは違う。単純にシートサイズ、フットペダルの位置が、ジャンの体に合わせてあるからだ、と言えなくもないのだが、それだけでは説明の出来ない感慨でもある。
「……………」
 『敵』の感触は近づいている。明らかに悪意を持って接近している。僅かに切迫感を感じ、ジャンは主電源のスイッチを入れる。
 ブーン…………と電圧の上がる音。関節のモーターにも動力が伝わる。ゴワッ、と排気口からガスが流れて、始めてコックピットハッチを閉めていない事に気が付く。
 フェニックスの双眼が光る。直ぐにでもミノフスキークラフトの浮力が得られる程に核融合エンジンの出力が上がる。ナガノベースのメカマンのメンテナンスは、完璧だったようだ。
<テス、とか言っていた……>
 ジャンとテスは勿論、出会ったことがある。だが、テスが執着する程にジャンを知っているのに対して、記憶が曖昧なジャンにとっては、ただ忌み嫌う思惟の持ち主でしかない。
「ゼータだ」
 ジャンはポツリ、と呟いた。
 それは、テスがやってくる、と認識したことと同意だった。
《エイト、飛びなさい!》
 ナナにそう言われて、ジャンはフットペダルを踏んだ。
ガガッ!
「うっ!」
 垂直にGが掛かる。歯を食いしばる。フットペダルから足を離して推力を下げようとしたが、Gの為にそれもままならない。そこで、やっとジャンは操作デヴァイスをサイコミュに切り替える事を思いつく。
 パチパチ、と数種類のスイッチを入れ、念じる。
 フワッと金色のフェニックスは上昇を止めて、ミノフスキー粒子の浮力に乗る。そのまま浮力の向きを変える。スーッと流れるように、金色のフェニックスは『敵』に向かっていった。
 ナナはジャンの後方に下がり、援護をするポジションにいた。それが『いつものパターン』だったし、ナナとすれば、久しぶりにそれをやってみたい、との欲求もあろう。
「来るよ!」
 ジャンはナナに向かって叫んだ。と同時に、前方から光芒が走る。
バッシュ!
<スマート・ガン!>
 一応、レーダーに目を向ける。が、当然のことながら、ミノフスキー粒子の影響下では役に立たないものだ。それでも敵機の機数を知りたい欲求にかられる。とりあえずは熱源センサーに切り替える。が、熱源は遠く、サーチ出来ない。
 ジャンは自機の後方に推力を掛ける。前に押し出されるように金色のフェニックスはゆるり、と滑り出す。
 テス……の反応は感じられた。だが、恐いのは、意識の外からやってくる砲弾だ。これはモビルスーツを使った戦争に限ったことではない。
 ジャンは意識を集中させる。
《六機よ!》
 ナナからの思念が伝わる。勿論、同時にジャンにも感じられた。特に強い思念を感じる機体はテス。動きが妙に早いものが二機と、それに追従するような形で三機。前者は恐らくZPlusだろう。そして、後者はサブ・フライト・システムに乗ったGM。
 戦力とすれば多い方だろうが、このフェニックス二機に対しては少ないように感じた。それ故のテス自身の参戦なのだろう。
「すれ違う?」
 ZPlusは、ビームを乱射しながら接近する。こちらの軸線には乗っていない。中央のテス機……望遠画像に映る……を援護する布陣だろう。
<トリコロールの機体……>
 ジャンはハッとなった。あれは、先程まで自分が操っていた機体ではないか!
「?」
 何だ? ビームではなく、散漫な弾が来る?
 ジャンは機体を旋回させ、回避させようとする。
 が、その弾は途中で弾け、散弾となってフェニックスを襲う。
「チイッ!」
 ジャンはフェニックスの両腕についているビームガンを、拡散ビームとして撃つ。シールドの代わりに散弾は機体の前で蒸発する。
《散弾を使ってるよ!》
 ナナの声。テスの魂胆が見える。ビームが効きにくいフェニックスに対して、弱々しくも確実なダメージを負わせる実体弾を使っているのだ。
《チッ……》
 後方のナナは直線的に突っ込んでくるZPlusを狙撃する。が、ZPlusは途中で変形し、減速する。ZPlusは腕のグレネード・ランチャー……これも散弾だった……を撃つと、落下スピードを利用して離脱する。再びウェイブライダーに変形。
「追わないで!」
 ジャンはナナに叫ぶ。テスが間近に迫っているのだ。背を向ければ落とされる。しかし、下にZPlusが存在することは面白くはない。
 安全な場所を探して、ジャンは機体を後退させる。
《逃がさないよ!》
 が、強烈な思惟がサイコミュ・ヘッドから伝わる!

※本コンテンツは作者個人の私的な二次創作物であり、原著作者のいかなる著作物とも無関係です。