機動戦士フェニックス・ガンダム

作:FUJI7

12 ジャンの逡巡

《なかなかの機体だな。悪くない》
 滑走路に人型形態で着地した、ガルボ・エグゼ二号機から、コードはご満悦の様子を伝えてきた。
 その、のんびりした会話とは裏腹に、まだ生き残っている管制塔は慌ただしさに包まれていた。
《ミノフスキー粒子が戦闘濃度になってるぞ! 戦闘濃度だ!》
《来るぞ!》
《海岸線に設置のカメラ映像キャッチ! 敵モビルスーツ………数は不明! 六機から一〇機………?》
《機種は!?》
《ZPlus! シャクルズに乗っている……GMに見えるが……武装は強化されている模様!》
《ちくしょう、こんな時に! C−235! 発進許可が取れない!》
《冗談言うな! このままでもマトになっちまう! いいから出させてくれ!》
 そんなやり取りを聞きながら、ジャンはノーマルスーツのヘルメットを被り、コックピットに座った。
<情報が混乱している? 正規のクルーではないのか………>
 先の攻撃で平時のクルーはかなりやられてしまっている筈だ。輸送機のパイロットも、先に負傷したモビルスーツのパイロットだと言っていたのを思い出す。
<どちらにせよ、三倍の戦力と戦わなければならないのか………これでは作戦も何も、あったものではないな………>
 ジャンはやや悲嘆に暮れる。が、実際はそれほど落胆してはいない。コードは、やはり、と言うか、ものの十数分でガルボ・エグゼを手足の様に使って見せた。その機動性は先のパイロット………コンマと言う名前だと聞いた………に勝るとも劣らない動きだった。
 もう一機のガルボ・エグゼはシーツリーが乗る事になった。レクチャーは受けていたらしい。彼の弁を借りれば、
「自分はモビルスーツフェチでしてね。趣味なんですよ」
 とのことだ。そのシーツリー機、ガルボ・エグゼ三号機は、ジャンよりも前に滑走路に出て、コード機に接触して、状況を伝えている。同じ滑走路に、C−230型輸送機が、離陸体勢のまま、待機している。あの中にメリィもいる筈なのだ。
「………ジャン、出ます」
 ビームライフルの他にジャン機はビーム・スマートガンを抱えた。スマートガンは、大口径のビーム砲である。陸戦艦の主砲クラスの威力がある。
「さて………」
 サイコミュを使わずに、どれだけ戦えるのだろうか。それが不安だった。先の戦闘は運が良かったのだ。
「……………」
 やるしかない。F型は格納庫の前まで出ると、コード機、シーツリー機を視認してから、脚部バーニアに点火した。
 大ジャンプ。そのままスマートガンをシールド代わりにして変形を始める。巡航形態。他の二機もジャン機に倣ってジャンプ、変形を始める。
 ジャンは熱反応モニタをサーチする。熱源キャッチ。ダミーかどうか、判断に迷う動きだ。通常レーダーに一瞬だけ切り替える。が、ミノフスキークラフト機が側にいるお陰で殆ど役に立たない。
「!」
 映像モニタの方に反応があった。光を見たような気がした。
<殺気!>
 そう、それだ。装甲越しに感じる、敵の『気』だ。しかし、これは殺気が表に出過ぎている。何故だろうか?
 その理由を考える前に、ジャンはスマートガンを一射して、直ぐ右旋回をした。『殺気』の出所へ撃ったつもりだ。
 火球! 当たった?
「!」
 大口径ビームの光! ジャンは尾翼に当たるスタビライザーを利用して、AMBAC機動、更には補助バーニアを目一杯吹かし、回避する。
<スマートガン!>
 そう、敵もZPlusなら、不思議ではない。
「!」
 細かいビームの雨! これはビームマシンガンだ。射程の短い武器だけに、それは軽々と避ける。
<敵!>
 左に旋回し、避けたところでやっと、ジャンは敵のモビルスーツを視認できた。接近戦になるかもしれない。
「チッ!」
 ジャンは変形レバーを押して、人型形態になった。瞬時にブレーキが掛かる状態になる。腰のラックからサーベルを引き抜き、それを空いている左手に持たせる。が、用意だけしておいてスマートガンを撃つ。
 GMに見えるモビルスーツ………は、シャクルズを残したまま、横っ飛びにビームを回避した。やけに動きがいい。シャクルズは火球に包まれたが、飛んだモビルスーツはシールド裏のミサイルを放った。その横から他の機体が牽制のビームマシンガン。ジャンは一旦距離を取って、ミサイルを回避。ジグザグにコースを取り、接近する。
「クッ!」
 このまま斬りつけても回避される、と思ったジャンは左手のグレネードランチャーを一射、それを回避したGM………GMIVの武装強化改修ヴァージョンである新設計機、GMVと言う俗称だった………に横から斬りかかる。
 やった、と思いきや、切断したのはGMの腕だけだった。素早い。機体性能も腕もいい。ジャンは失敗したと判断し、スッと僅かに後退しながら旋回する。上手く背後に回る事ができた。スマートガンの長い銃身の先が、GMのバックパックに密着する。0射撃。ビームがGMの腹を貫通し、湯気と共に腹の向こうの景色が揺らいで見える。
 ジャンは破壊したGMの機体に一度乗り、それを足場にしてジャンプ、巡航形態に変形する。
 再び熱源を発見する。
<僚機?>
 コード機、シーツリー機が交戦しているようだ。複数機が相手の様子だが、あの二人とあの機体ならば、何とかなるのではないか、とジャンは楽観視する。
「!」
 大口径ビーム! 一本ではない。二、三機はいる。たとえF型とはいえ、三機のZPlusが相手では分が悪い。フォーメーション攻撃をしてくるのであれば尚更、である。
 ジャンの目にサイコミュ起動スイッチが入る。これさえ起動すれば手強い相手ではない。だが、起動すれば自分に悪影響がある事は想像できた。
 躊躇うジャン。その気分の隙をついてビームが飛んでくる。
「クッ……」
 加速。空気の壁に乗る。回避。変形。スマートガンを撃つ。もう一射。回避される。
<当たらない!>
 ジャンに押し寄せる焦燥の波。ニタ研所属のパイロットであれば、純粋に強化人間と呼べなくても、どこかを強化してある可能性があった。それでも、せめて一対一なら、操縦能力だけで圧倒的なのに………と、焦りは募る。
「ウッ!」
 スマートガンに被弾する。これで火力が落ちたことになる。溶けた銃身を投げつけ、それで敵を誘う。シールドにあたる部分には被弾していない。まだ巡航形態には変形できる。
 一旦離脱する事を決意する。変形、巡航形態になる。ZPlusは追撃の為に、同様に変形し、スマートガンを乱射気味に撃ってくる。
 空中にはモビルスーツ戦に於いて有利、不利な『場所』などない。強いて上げれば雲の中は多少視認能力が落ちる、と言う点では目先の変わった場所だ。
 その、雲の中にジャンは機体を突っ込ませた。同時にエンジンカット。廃熱を少なくする。ダミーを射出。これは熱源を持つタイプだ。
<引っかかってくれると良いが………>
 推力が低下し、F型は落下軌道に入る。その間もAMBAC機動で機体の向きを修正する。
 熱源反応が大きくなる。敵機がダミーを狙撃したのだ。
「そこか?」
 ジャンはダミーの爆発から、敵機の狙撃の地点を割り出し、そこへサンドバレル……散弾と、ビームライフルを乱射した。
 火球! が、それは小さい。ダミーか、敵の兵装に着弾したのか。
 ジャンはエンジンを点火、推力を与え、上昇、雲の上に出る。
 が、そこには二機のZPlusの青い目が光っていた。
 ビームの光! 殺気を僅かに感じ、ジャンは辛うじて回避する。下降、再び雲の中に入る。
 ジャンは考える。
<このままじゃ、やられてしまう……。どうする? どうするか?>
 手がサイコミュのスイッチに伸びる。
<機械を使わないと勝てないのか………?>
 その躊躇いも、メリィやコードの事を考えれば、『守らなければならない』とする意識の方が勝る。ジャンは決意する。
<入れる………入れるぞ………>
 雲の中で、ジャンは逡巡しながらも、ついにサイコミュを起動させるのだった。

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